Jean Paul Gaultierの名作コレクションについて|後編


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こんにちは。ブランド古着のKLDです。

50年というキャリアの中で、数え切れないほどの革新と影響を与えてきたジャンポール・ゴルチエ。

彼の数々の作品には、「名作」と呼ばれるコレクションが多く存在します。

今回は、1990年代後半からゴルチエが引退する2020年までの名作コレクションを「後編」として紹介していきます。

Jean Paul Gaultierの名作コレクション|前編についてはこちらもどうぞ

1995AW Cyberbaba


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1995AWコレクション「Cyberbaba(サイバーババ)」は、サイバーパンクと東洋的スピリチュアリズムを融合させた作品で構成されています。

インドの宗教指導者である「サイババ」と、テクノロジーや未来的要素などを意味する「サイバー」を組み合わせたスタイルを披露。


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神秘的な四角いアイシャドーにシャイニーなリップをつけたモデルが、インドの宗教的儀式を思わせるターバンや、未来的なサイバーパンク風のルック、蛍光色を用いた膨らみのあるドレスなどを身に纏い登場しました。


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身体に密着するスパンデックス素材や、サーキットボードを模したアイテムは、テクノロジーと人体の融合を象徴しています。


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中でも、オプ・アートの伝説的芸術家、ヴィクトル・ヴァザルリの作品に影響を受けたという不思議なドット柄がひときわ存在感を放ちます。

「ヴァザルリの光学的な方法で体の形を作りたかった」と、当時のゴルチエは語っていたそうです。


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デジタル時代の幕開けと人間の内的世界を繋ぐ表現をおこない、文化的・社会的なテーマを積極的に提起していたことが分かるコレクションだといえます。

1996SS Cyberbaba


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1995AWに続き、1996SSも「Cyberbaba(サイバーババ)」というコンセプトのコレクションを発表。

1995AWでは宗教的な要素を示し、未来の神秘的導師としてのモデル像が表現された一方で、1996SSでは「Safe Sex Forever」というスローガンを掲げ、ゴルチエがエイズ問題の深刻化を背景とした、“セーフセックス”という社会的メッセージを落とし込んでいます。


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メッシュや“Safe Sex Forever”というタトゥー風プリントによって、身体そのものが“セーフセックス”の啓発媒体として存在させました。


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厳密に言うと、95AWと96SSの両シーズンは直接的な続編ではないものの、どちらも「ファッションとは身体を通じて世界に語る手段である」というゴルチエの信念を体現しているといえます。


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また、1996SSは、象のプリントやテンガロンハット、エキゾチックなテキスタイルなど、異国的な雰囲気も大きな特徴としています。


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これらのデザインやアイテムを用いた背景には、当時エイズの流行が深刻化していたアフリカ諸国への視線を意識的に取り入れたものだったとされています。

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ゴルチエはこのコレクションで、ファッションが社会と向き合う力を持つことを証明しました。

1996AW Homme Couture(メンズオートクチュールコレクション)


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1996AW「Homme Couture(オム・クチュール)」は、ゴルチエがオートクチュールの美学をメンズファッションに本格的に導入したコレクションです。

スカートを履いたメンズモデル、刺繍入りのロングジャケット、華やかなコルセットなど、当時のジェンダーノームを覆すルックを披露。

クライマックスには、メンズモデルが白のウエディングドレスをまとって登場し、観客に衝撃を与えました。

これは単なる話題性ではなく、性別という固定観念をファッションで揺さぶる象徴的な演出でありました。

90年代半ばの当時、メンズファッションはまだ保守的な傾向が強く、ジェンダー表現に挑むデザインはごく限られていたなかで、ゴルチエはオートクチュールの技法を通して、男性の身体を自由な表現の対象として提示したのです。

「Homme Couture」は、のちのユニセックスやジェンダーレスの潮流を先取りした歴史的コレクションで、現代から見てもきわめて先鋭的なメッセージを放っているといえるでしょう。

1999SS Les Touristes Japonaises au Louvre


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1999SS「Les Touristes Japonaises au Louvre(ルーブルの日本人観光客たち)」は、ルーブル美術館を訪れる日本人観光客がインスピレーション源となったコレクションです。

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着物風ドレスや帯のようなディテール、和柄プリントなど、日本の伝統衣装を大胆に取り入れたルックが登場。


デヴォン青木 引用firstview

デヴォン青木をはじめとしたアジア系モデルたちによって、その存在感をより一層際立たせていました。

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日本文化への深い理解とそれを再解釈する創造性は、アジア回帰がファッション界における注目テーマだった時代性も色濃く反映され、多くの評論家やファッション愛好家から称賛されました。

2003SS Appel d’air, merci Calder


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2003SS「Appel d’air, merci Calder(風の呼び声、カルダーに感謝)」は、アメリカの彫刻家アレクサンダー・カルダーに捧げたオマージュコレクションです。

アレクサンダー・カルダーは、「モビール」と呼ばれる、動く彫刻を発明・制作した人物です。


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このシーズンでは彼の動的で軽い美学を、デザインや演出に反映しています。


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オーガンジーやチュールなど風をはらむ素材を多用し、非対称にシルエットを構築して、動きそのものを“デザイン”としているのが特徴です。

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不規則なカットや動きのあるチェーン装飾などの彫刻的な要素が取り入れられているほか、カラーパレットもカルダーを思わせる原色が軸となっています。

「静と動のコントラスト」と「重力とバランス」を際立たせた構成は、服そのものをモビール彫刻のようなアートに昇華させているのです。


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また、軽やかさと自由さを強調した、モビール彫刻を彷彿とさせる“吊るす”演出も見所です。


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当時の世界情勢に不安が広がる中、ゴルチエは空気や軽さといった“目に見えない自由”を表現し、現実に抗う美しさを体現しました。

2007SS Les Vierges(オートクチュールコレクション)


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2007SS「Les Vierges(処女)」は、宗教的シンボリズムと純潔さをテーマにしたオートクチュールの代表作です。

インスピレーション源はカトリック美術、とくに聖母マリアのイメージやルネサンス絵画に見られる女性像だそう。

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コレクションには、聖母マリアや天使のイメージを元にした純白のレース、繊細な刺繍、光沢感のある素材などを用いた純粋かつ高貴な美しさが際立っていました。

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一方で、透け感のある素材やコルセット、身体を強調するシルエットは、聖性と官能の境界を曖昧にし、観る者の価値観に揺さぶりをかけました。


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中でもとりわけ目を引いたのが、光輪(ヘイロー)を模した壮麗なヘッドピース。それは彼女たちを神聖な処女性の象徴へと昇華させています。

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ファッションを通じて“神聖なる女性像”を表現することは、ある種、挑戦的な姿勢でありましたが、同時にゴルチエの多文化哲学が凝縮されたコレクションとして高評価を得ています。

2008SS Pirates


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2008SS「Pirates(海賊)」は、ゴルチエが“海賊”という存在を通じて、文化横断的な美意識と自由の精神を表現したコレクションです。


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インスピレーション源は、17〜18世紀の実在の海賊たち。
彼らはただの無法者ではなく、寄港地ごとに異なる文化・衣服・習慣を取り入れて独自のスタイルを形成していました。その雑多性と奔放さこそが、ゴルチエが描いた“ファッションの自由”の原型だったのです。

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コレクションには、トリコーンハット、ロングコート、ワイドベルト、レースアップブーツなど、伝統的な海賊の装いに加え、カモフラージュ柄やミリタリージャケットといった現代的モチーフも登場。

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中性的なシルエットやスタイリングによって、“戦う女性”としての力強さとエレガンスを併せ持つスタイルが展開されました。


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ファッション界ではヴィンテージ回帰と脱構築的アプローチが交錯していた2000年代後半。そうした潮流の中で、ゴルチエは“歴史の中に現代性を持ち込む”逆説的手法をこのコレクションで発表し、一線を画しました。

2010AW boxing(メンズコレクション)


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2010AW「boxing(ボクシング)」は、ゴルチエが“戦う男”をテーマに掲げ、ボクシングの世界観をメンズウェアに大胆に落とし込んでいるのが特徴です。


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通常のメンズコレクションではなく、メンズのリアルクローズラインである「JEAN PAUL GAULTIER monsieur」のコレクションです。

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ショーの中央には実物大のボクシングリングが設置され、モデルたちはボクサーさながらのスタイルで登場。

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顔にはアザや傷のメイクが施され、闘士の姿を演出しました。

アイテムはテーラードスーツやレザージャケット、ジャンプスーツ、極太ニット、キルト風スカートなどさまざま。


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特にスーツをスウェット素材で仕立てたルックやボクシングローブ、ニットマフラーを組み合わせたスタイリングが印象的で、スポーツとクラシックの融合を巧みに成立させています。


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カラーは黒とグレーを基調に、カーキやパープルがアクセントとして加えられ、落ち着きの中に力強さが宿る配色構成となっています。


傷メイクをバッチリきめたゴルチエ 引用note.com

リーマンショック後の時代背景のなかで、「戦う男」「耐える男」を再定義するような社会的メッセージも込められ、現在では知る人ぞ知る“名作コレクション”とされています。

2013AW Woman as Predator(オートクチュールコレクション)


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2013AW「Woman as Predator(ハンターとしての女性)」は、“肉食的な女性像”をテーマにした、力強くもドラマティックなオートクチュールコレクションです。

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豹柄やフェザーを使った装飾、動物的なモチーフ、鋭いシルエットなどを散りばめたルックが登場し、女性は狩られる存在ではなく狩る側として描かれました。

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また、黒を基調としたフォーマルなスタイリングも多数登場し、一部ファンからは喪服ルックという声もありました。

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パワフルで挑発的なデザインは多くの高評価を得ましたが、大物ファッション評論家のティム・ブランクスからは酷評を受けたコレクションとしても知られています。

ちなみに、ティム・ブランクスの辛口評価に対し、ゴルチエが公開反論したことでも大きな話題となりました。

2015SS Farewell to Ready-to-Wear


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2015SS「Farewell to Ready-to-Wear(プレタポルテへの別れ)」は、ゴルチエが自身のプレタポルテ(既製服)ラインに別れを告げた、プレタポルテのラストコレクションです。


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コレクションは単なるランウェイではなく、“ミス・ジャンポール・ゴルチエ”を決めるビューティー・ページェント形式で開催されました。

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モデルたちは「地方紙記者」「スポーツマン」「ソーシャルメディアクイーン」など、現代社会を象徴するさまざまな女性像に扮して次々と登場し、ステージ上でキャラクターショーのように競い合いました。


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また、過去の名作であるアシンメトリーなテーラード、コルセット、マリン、ストライプなど、ゴルチエの美学を象徴する要素も一挙に再登場。

このコレクションでは、ゴルチエらしいユーモアと演出力が炸裂したとともに、「服を売るためのファッションに別れを告げる」というメッセージを鮮明に表しました。


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彼はこのショーをもってプレタポルテから完全撤退し、これ以降オートクチュールと舞台衣装に専念することを明言。

この決断は、ビジネスとクリエイションの両立に悩む多くのデザイナーたちにとっても印象的な出来事となりました。

2020SS 50th Anniversary Haute Couture Show(オートクチュールコレクション)


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「50th Anniversary Haute Couture Show(または『Last Show of Jean Paul Gaultier – 50th Anniversary in Fashion』)」 と題した2020SSオートクチュールコレクションは、ゴルチエがランウェイからの引退を発表した“ラストショー”です。

また同時に、彼のキャリア50周年を祝う壮大なショーでもありました。

パリで開催された一夜限りのステージは、ゴルチエの歴代ミューズやスーパーモデル、友人、後輩デザイナーたちが登場し、ファッションという舞台に捧げた50年の集大成を祝福。


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幕開けは、モード界における“ジャンポール・ゴルチエの死”を象徴的に演出した、棺桶を運ぶ葬列から始まりました。

これは決して悲劇的なものではなく、祝福と再生の物語を描いているそう。

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そして華やかな音楽と共にショーは一気に色彩とエネルギーに満ち、ステージは祝祭へと変貌します。

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作品は、コーンブラ、マリンルック、トロンプルイユのプリント、ストライプ、アフリカン・モチーフ、ヒジャブ、スカートを穿く男性、宗教的シンボル、アナーキーなど…。ゴルチエが時代を超えて提案し続けたテーマすべてが集約し、まさに“ゴルチエのファッション人生の回顧録”のようなものでした。


長きにわたりゴルチエのミューズであったタネル・ベドロシアンツも登場 引用firstview

ラストルックでは、フランスの歌手ミレーヌ・ファルメールが登場し、深い感動と共に幕を閉じました。


ミレーヌ・ファルメール 引用firstview

ゴルチエが幼少期から憧れていた演劇の世界観を、見事にファッションショーと融合させた華麗で感動的なショーで、「名作」と呼ぶにふさわしいコレクションだといえます。

このコレクションをもって彼はランウェイから完全に引退。


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以降、デザイナーとのコラボレーションや舞台芸術などを中心に活動しています。

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ここまで読んでくださった方へ

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

ジャンポール・ゴルチエが残した名作の数々は、今でこそ浸透してきている「ジェンダーレス」「多文化や多様性を取り入れること」「宗教的な精神を理解すること」などを、いち早く取り入れ、ファッション界に新たな道を示してきました。

彼の挑戦的で自由なクリエイションは、今後も“何かの名作”として形になるでしょう。

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