
COMME des GARÇON 2025SS 引用fashion-press
こんにちは。ブランド古着のKLDです。
ファッションの世界で「アヴァンギャルド(Avant-Garde)」という言葉をよく耳にします。
特に、川久保玲やヨウジヤマモトなど、挑戦的なデザインを発表してきたデザイナーたちの作品を指して「アヴァンギャルドなファッション」と形容されることがよくあるかと思います。
しかし、そもそも『アヴァンギャルド』とは何なのでしょうか?
本来どのような意味を持ち、どのような形でファッションに取り入れられてきたのか?
この記事では、アヴァンギャルドの意味とその歴史、さらにファッションにおけるアヴァンギャルドなデザインの特徴や代表的なブランドについて詳しく解説していきます。
今回は、
- アヴァンギャルドとは何なのか
- ファッションにおけるアヴァンギャルドとは?
- アヴァンギャルドのデザイナーたち
という形でお話していきます。
「改めて『アヴァンギャルド』の意味を知りたい!」という方にぜひお読みいただきたい記事です。
目次
『アヴァンギャルド』とは何か
マルセル・デュシャン「泉」(1917年)引用media.and-owners
『アヴァンギャルド(Avant-Garde)』という言葉は、フランス語で「前衛」や「先駆者」を意味します。
もともとは軍事用語で、「前衛部隊(先頭を行く部隊)」を指していました。
この言葉が芸術や文化の文脈で使われるようになったのは、19世紀以降。
特に20世紀初頭には、美術や文学、音楽、建築などの分野で伝統を打ち破る革新的な表現を目指す動きが『アヴァンギャルド』と呼ばれるようになりました。
アヴァンギャルドの基本的な特徴は以下のようなものです。
- 既存のルールや価値観に挑戦する(革新性)
- 新しい表現手法や技術を試みる(実験性)
- 時代の社会・文化・芸術の枠組みに疑問を投げかける(反体制・反主流)
- 一般的な美意識から逸脱し、挑発的または衝撃的な表現を生み出す(挑発性・衝撃性)
アートの分野においては、ダダイズム、シュルレアリスム、フューチャリズムなどの運動がアヴァンギャルドとされ、実験的で前例のない作品を次々と生み出してきました。
パブロ・ピカソ「ゲルニカ」(1937年)引用artmuseum.jpn
キュビスムのパブロ・ピカソ、『泉』を制作したマルセル・デュシャン、シュルレアリスムのサルバドール・ダリ、ポップアートのアンディ・ウォーホル…など、アヴァンギャルド性を持つアーティストは数多くいますが、この有名なラインナップを見れば概ねアヴァンギャルドの精神性が理解できるのではないでしょうか。
そして、このアヴァンギャルドの精神は、やがてファッションの世界にも大きな影響を与えるようになります。
ファッションにおけるアヴァンギャルド
Christian Dior by John Galliano(2000AW)引用firstview
ファッションの歴史の中で、アヴァンギャルドなデザインが目立ち始めたのは20世紀の中頃から。
従来の服飾のルールや既存のシルエットを覆すような挑戦的なデザインが登場し、時代ごとに異なる形で展開されてきました。
ファッションにおけるアヴァンギャルドの特徴としては、以下のようなものが挙げられます。
- 伝統的な服のシルエットや機能を破壊する(革新性)
- 素材や構造、技法に実験的な要素を取り入れる(実験性)
- 既存の社会や文化への疑問を投げかけている(反体制・反主流)
- 実用性よりも芸術性を重視する(挑発性・衝撃性)
ここに記載している特徴は、アヴァンギャルドなデザインに見られる要素の一例であり、すべてを兼ね備えている必要はありません。
デザイナーごとに強調する要素は異なり、例えば「反体制・反主流」の部分などについては、必ずしも社会的メッセージ等を含むものばかりではなく、新たな美の概念を提示することでアヴァンギャルドとされる場合もあります。
例えば1930年代、エルザ・スキャパレリはオートクチュールの世界でファッションにシュルレアリスム(超現実主義)を持ち込み、機能性よりも芸術性を押し出したファッションを提案。
1950年代、クリストバル・バレンシアガはそれまでの女性のファッションの常識であった「身体のラインを美しく見せる服」という概念を打ち破り、ウエストを消した服や体のラインを覆い隠すフォルムで建築的なシルエットをファッションに持ち込みました。
また、1970年代にはヴィヴィアン・ウエストウッドがパンクファッションを確立し、反体制的なメッセージを込めたファッションを展開。
ヴィヴィアン・ウエストウッドが作った「World’s End」の服 引用pinterest
パコ・ラバンヌは、金属などのおよそファッション文脈では用いられなかった素材を使い、衝撃的なルックスの服装を提案しました。
1980年代には川久保玲やヨウジヤマモトが、当時の西洋のファッションのメインストリームに対するアンチテーゼとして黒を基調としたオーバーサイズの服を発表し、ファッション業界に衝撃を与えました。
1990年代にはマルタン・マルジェラが既存の服の概念を解体し、脱構築的な手法で新たな価値観を提示。
ジョン・ガリアーノはアヴァンギャルドの手法で独自のロマンティシズムを追求しました。
マルタン・マルジェラ、トルソーを使った1997年の作品 引用pinterest
このように、これらのデザイナーたちはそれぞれ異なる視点でアヴァンギャルドなアプローチを行っていますが、共通して新しい価値観を提示し、ファッション史において革新をおこなってきました。
代表的なブランドとデザイナー
ここでは、アヴァンギャルドなデザインをおこなうという点で、有名なデザイナーに焦点を当ててご紹介します。
アヴァンギャルドは時代と共に変わるものですが、その時代ごとに鮮烈なイメージでファッション業界を塗り替えたデザイナーに焦点を当てて、時代を問わずご紹介していきます。
川久保玲(COMME des GARÇONS)
1982年、『黒の衝撃』で発表したコーディネート 引用buzzfeed
川久保玲のデザインは、「完成された美しさ」に対する問題提起から生まれていると言われています。(しかし本人は何も語らず、真意は明かさないというスタンスをとっていますが。)
COMME des GARÇONSというブランド自体、一貫して鮮烈でアヴァンギャルドなデザインが多く見受けられますが、特に1981年のパリコレクションで発表した「黒の衝撃」は、当時賛否両論を巻き起こし、非常に話題となりました。
当時のファッション業界では「黒」は半ばタブーとされており、華やかなカラーリングで尚且つ女性らしいシルエットのデザインが主流でした。
そんな中、ボロボロに加工した「黒」のデザインは、ファッション業界に大きな衝撃を与えました。
川久保玲自身はこの黒の衝撃に対して「自分が美しいと思うものを作っただけ」と語っていますが、結果的に欧米の既存の価値観を混乱させ、新しい美しさを提示することになったのでした。
現代では黒くてダメージ加工を施された服はありふれていますが、当時のファッション業界では常識を覆す、まさに『アヴァンギャルド(前衛的)』なデザインだったといえるでしょう。
他にも97年春夏シーズン「Body Meets Dress, Dress Meets Body」で展開した通称『こぶドレス』などについても、非常にアヴァンギャルドな試みであったといえます。
様々なデザインが受け入れられるようになった多様性の現代においても、COMME des GARÇONSは変化し続け、アヴァンギャルドなデザインを用いて、既存の美しさの枠組みへの疑問を投げかけ続けています。
山本耀司(Yohji Yamamoto)
1999AWより 引用pinterest
COMME des GARÇONSと同じく、80年代に『黒の衝撃』としてモード界にセンセーションを巻き起こしたブランドとして、Yohji Yamamotoがあります。
山本耀司のアヴァンギャルド性は、西洋のファッションの価値観に対する“挑戦”にあります。
1980年代初頭、彼は川久保玲とともにパリコレクションに登場し、黒を基調としたオーバーサイズの服、解体的なシルエットで“不完全の美学”を提示します。
当時のヨーロッパのファッションは、華やかで身体にフィットしたエレガンスが主流でしたが、彼の服は「ボロ布」と批判されるほど異質でした。
しかし、これは単なる奇抜な服ではなく、「完璧ではないものにこそ美がある」という日本的な美意識を体現していたものでした。
彼の作品は、ファッションの既存のルールを打ち破り、「不完全な美」や「余白の美」を提唱することで、ファッションの概念そのものを揺るがしました。
これは、単なる流行ではなく、価値観の転換を促すアヴァンギャルドな試みだったといえるでしょう。
また、毎シーズン驚くような新しいデザインを見せる川久保玲と比べて、山本耀司のデザインは、基本的には一見すると『黒くてドレープが効いた服』で長年変わらないように見えます。
しかし、それは単なるお家芸ではなく、彼が長年問い続ける『服とは何か?』『美とは何か?』というテーマに対する、一貫したアヴァンギャルドな姿勢の表れといえます。
“変わること”が革新なのではなく、“変わらずに問い続けること”こそが、彼のアヴァンギャルドのあり方と言えるでしょう。
エルザ・スキャパレリ(Schiaparelli)
1951年の作品 引用pinterest
エルザ・スキャパレリは、1930年代〜50年代、シュルレアリスム(超現実主義)をファッションに持ち込んだ先駆的なデザイナーとして知られています。
当時の既存のエレガンスとは一線を画すアヴァンギャルドなアプローチを取った彼女のデザインは、機能性や伝統的な美しさを重視するのではなく、遊び心と奇抜なアイデアを優先し、視覚的・概念的な衝撃を与えることに重点を置いていました。
彼女はサルバドール・ダリやマン・レイといったシュルレアリスムの芸術家と協力し、ロブスターをプリントしたドレスや、引き出しのついたスーツ、帽子を逆さまにしたシューズハットなど、非現実的で夢幻的なデザインを次々に発表。
サルバドール・ダリと協力して制作した『ロブスタードレス』 引用pinterest
これは「服は実用的なもの」という当時の価値観を覆し、ファッションをアートの領域へと押し上げる試みといえるものでした。
さらに、彼女は『ショッキング・ピンク』という鮮烈な色彩を生み出し、服のシルエットだけでなく、色彩感覚においても常識を打ち破ります。
スキャパレリのデザインは、“単なる奇抜なファッション”ではなく、ファッションを芸術と結びつけ、新しい価値観を提示する という点で、アヴァンギャルドの本質を体現していたと言えるでしょう。
クリストバル・バレンシアガ(BALENCIAGA)
『ラップドレス』(1967年) 引用afnewsletter
BALENCIAGAの創業者であるクリストバル・バレンシアガのアヴァンギャルド性は、建築的なシルエットと布の扱いの革新にありました。
彼は派手な装飾や過激なデザインではなく、“服の作り方”そのものを変えることで、ファッションの枠組みを拡張したといえます。
具体的には1950〜60年代、バレンシアガはウエストを消した「バレルライン」や「コクーンコート」、肩から裾にかけて流れるような「ペーパードレス」など、従来のシルエットを大胆に再構築しました。
『サックドレス』(1957年) 引用1000ya.isis
これは、それまでのレディース服の「身体の曲線を強調する」ファッションの常識を覆すものであり、服のフォルムに対する新たなアプローチの提示でした。
「私の服を着るのに完璧も、美しさも必要ない。私の服が着る人を完璧にし、美しくする。」
この自信に満ち溢れた言葉はクリストバル本人のものですが、彼が作った洗練された建築のようなドレスを見れば納得せざるを得ません。
彼は静かに、しかし根本的にファッションの構造を変革した職人的な人物であり、後の建築的なシルエットのデザイナーたちへの強い影響を与えたアヴァンギャルド(前衛的)なデザイナーだったといえます。
パコ・ラバンヌ(Paco Rabanne)
『アルミニウム・チェーンドレス』(1966年) 引用cahiersdemode
パコ・ラバンヌは、ファッションの素材と構造に革新をもたらしたアヴァンギャルドなデザイナーの一人。
1960年代、彼は従来の布地を使わずに、メタル、プラスチック、PVC、アルミ、紙などの異素材を積極的に使い、「未来の服」を提案。
1966年に発表した『着られないドレス(12Unwearable Dresses in Contemporary Materials)』コレクションでは、金属パーツをチェーンでつなげたドレスを発表し、従来の縫製の概念を完全に否定しました。
服を仕立てるパコ・ラバンヌ 引用showstudio
この試みは、「服とは何か?」という根本的な問いを投げかけるものだったといえます。
また、彼のデザインは、当時の宇宙開発競争やSF的未来像とリンクし、「スペースエイジ・ファッション」の象徴となりました。
ボディラインを強調するのではなく、幾何学的で硬質なシルエットを生み出し、機能美とは異なる新たな美の概念を提示。
さらに彼の特異な点は、この新しいファッションについて大量生産の可能性を視野に入れ、ファッションを「一点物の芸術」ではなく「新しいテクノロジーの産物」として再定義しようとした所でした。
パコ・ラバンヌのアヴァンギャルド性は、ファッションを“衣服”という枠から解放し、アートやテクノロジーと融合させることで、新しい時代の服の在り方を提案した点にあります。
その前衛的な挑戦は、後のデジタルファッションや3Dプリント技術を用いた衣服へとつながる先駆的な試みだったといえます。
ジョン・ガリアーノ(John Galliano、Givenchy、DIOR、Maison Margiela)
Christian Dior 2004SS 引用firstview
ここまでご紹介したアヴァンギャルドの表現を得意とするデザイナーは、既存のファッションの常識に挑戦するマインドを持ってブランドを構築してきたパターンが多かったといえます。
しかし、ジョン・ガリアーノはただただ「自分の思う美しいもの」に潜り込んでいったデザイナーの一人です。
特にDIOR時代に一つの到達点を極めたといっていい彼の派手なデザインは、見るからに『アヴァンギャルド』といっていいものですが、そのマインドは己の思う“美しいもの”を演劇的に物語として語ることに従事する、ある種素直なマインドだったといえます。
現実の社会に対峙するよりも、「ファッションの美しさ」や「歴史的な物語」を最大限に誇張し、夢のような世界を作ることに腐心したガリアーノ。
Christian Dior 2000AW 通称「ホームレス・コレクション」引用firstview
一部のコレクション(例:DIOR 2000年秋冬のホームレス・コレクション)では社会的なテーマを扱ったこともありますが、それもまたロマンティシズムに帰結している傾向があり、基本的には美の探求を優先したといえます。
結果的に現実離れしたデザインで『アヴァンギャルド』と評価されるデザイナーではありましたが、社会的なメッセージ性よりも、美しさを追い求めるロマン派の詩人のような存在のデザイナーといえるでしょう。
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